前回に引き続き「時効」がテーマです。
時効には、取得時効であっても消滅時効であっても、その効力を発生させるには「援用」が必要となります。
「援用」とは「時効が成立したことを相手に主張すること」です。
前回の投稿で「時効完成」と何度も書きましたが、正確にいうと時効に必要な期間が経過しても、それだけでは時効の効力を発生させることはできません。
「時効が完成したのでもう借金はチャラですよ!」とか
「時効が完成したので所有権は私にありますよ!」など
相手に伝えることで初めて効力が生まれます。
時効についての問題では、この「援用」について問われることがあります。
つまり、本人じゃなくても援用ができるのか?
ということです。
詳しく見ていきましょう。
援用が認められた例
援用できる人(援用権者)は、民法145条によって「当事者」と規定されています。
では「当事者」とはどのような人かといえば、「時効によって直接利益を受ける者」と判例で示されています。
他の言い方をすれば、時効の援用によって、直接自己の義務や負担を免れる人です。
こうした人のみ、援用が認められることになります。
それでは、「消滅時効」の場合において、実際に判例で認められた人たちを見ていきましょう。
一つ一つ確認していきましょうか。
保証人・連帯保証人
「保証人」「連帯保証人」は、債務が時効によって消滅すれば、直接的に利益を受けることは分かりやすいと思います。
よって援用できます。
物上保証人・他人の債務につき譲渡担保権を設定した者
「物上保証人」は、他人の債務を担保するために抵当権を設定した人です。
こちらも債務が消滅すれば直接利益を受けることは分かりやすいですね。
「他人の債務につき譲渡担保を設定した者」とはなんでしょうか。
若干耳慣れない言葉かもしれませんが、「譲渡担保」とは、一旦物の所有権を相手に譲渡することで担保とし、債務を返済し終わったら物を返却してもらう、という担保方法です。
他人の債務のために自分の所有物を担保にした者ですので、物上保証人と同じ扱いとなります。
債務が消滅すれば直接利益を受けるので、援用が認められることになります。
抵当不動産の第三取得者
「抵当不動産の第三取得者」は、抵当権がついた状態の不動産を譲り受けた人です。
こちらは、債務が時効で消滅すれば抵当権を抹消できますので、直接的に利益を受けるため、援用ができます。
譲渡担保権者から目的不動産を譲り受けた第三者
これはちょっとややこしいので説明します。
譲渡担保については先ほどご説明しましたが、今回は債務者自らが譲渡担保を設定していた場合です。
Aはお金に困っていたので、自らが所有する不動産の名義をBに移転して1000万円のお金を借りました。(※Aは引き続きその不動産を占有します)
しかしAが支払いをしなかったので、Bは不動産をCに1500万円で売りました。
するとAはBに対して、「差額の500万円は返してくれ」と言えます。(これを清算金支払請求権といいます)
そしてBが支払わない間は、Aは不動産を留置して引渡しを拒むことができます。
この場合において、不動産を譲り受けたCは、「Aの清算金支払請求権」の消滅を援用することができるのです。
Aの請求権が消滅すれば、CはAに対して「その不動産を私に引き渡せ」と言えるので、直接の利益を受ける者だからです。
売買予約の仮登記に劣後する抵当権者・仮登記担保権の設定された不動産の第三取得者
ちょっと複雑な表現ですが、これは内容を細かく覚える必要はありません。
共通の「仮登記」というキーワードだけ押さえておきましょう。
「仮登記うんぬん」と書いてあったら、「援用できるんだな」と覚えれば試験対策としては問題なしです。
詐害行為の受益者
(詐害行為について詳しくはこちらをご覧ください)
受益者とは、悪人から財産を受け取った人(悪人の一味)です。
この人は、詐害行為取消権を行使されると、自らが受け取った財産を返還しなければなりません。
なので、詐害行為取消権の元となっている債権者の債権が時効で消滅すれば、直接的に利益を受ける立場となります。よって援用が認められます。
援用が認められなかった例
一方で、「時効の援用によって受ける利益が、反射的(間接的)なものである人」は、援用が認められません。
「消滅時効」については代表的な例として1つだけ押さえておきましょう。
不動産の「後順位抵当権者」は援用できない
例えば3番抵当の抵当権者が、1番抵当の抵当権者の債権の消滅を援用することはできない、ということです。
1番抵当が消滅すれば、3番抵当の人はその分多くの配当を受けられる可能性がありますが、それはあくまで抵当権の順位が上昇することによる反射的(間接的)なものだからです。
なお、「取得時効」に関しては、基本的に占有者(およびその承継人)のみが援用でき、他人はできないのが原則です。
建物賃借人は、建物賃貸人の土地に対する取得時効について援用できないという判例がありますので、これだけ押さえておきましょう。
援用ができなくなる場合
最後に、「援用」はいつでもできるわけではないということを覚えておいてください。
消滅時効が完成したとしても、その後に債務を承認した場合は、援用することはできなくなります。
支払いの一部を行ったり、念書にサインをしたり、返済の猶予を求めたりすることも債務の承認です。
これは、時効の完成を知っていても知らなくても変わらないので注意しましょう。
次回は、時効の放棄と更新についてです。
コメント
時効の援用権者に譲渡担保権設定者も入れるべきではないでしょうか?
(最高裁判所判決昭和42年10月27日)
こうへいさん、ご指摘ありがとうございます。
仰る通り、譲渡担保権設定者もありますね。
主債務者が譲渡担保を設定した場合と混同しないよう「他人の債務につき譲渡担保を設定した者」として追加致しました。