先日は「執行停止」と「差止め訴訟」について、要件の違いをご説明しました。
本日はその続きで、さらに理解を深めて頂くための知識をご紹介したいと思います。
先日ご説明した「執行停止」と「仮の差止め・仮の義務付け」をすることができる要件は以下のようなものでした。
執行停止
・原告の申立て
・重大な損害を避けるため緊急の必要がある
・本案について理由がないとはみえない
・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない
仮の差止め・仮の義務付け
・原告の申立て
・償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある
・本案について理由があるとみえる
・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがない
さて、実は上記の要件は、条文とは少し変えて書いてあります。
どういうことかというと、要件を全て「積極的要件」に書き換えてあるのです。
要件には、「積極的要件」と「消極的要件」という2つの種類があることを
ご存じでしょうか?
「積極的要件」と「消極的要件」の違いは?
「積極的要件」と「消極的要件」はどのように違うのでしょうか。
一言でいえば、
- 積極的要件:その行為を「やっていいよ」となる要件
- 消極的要件:その行為を「やっちゃだめよ」となる要件
ということです。
GOサインが出る要件か、STOPサインが出る要件か、
と言い換えてもいいと思います。
これは、条文を読むとよく分かります。
条文上で、
「~~のときは、〇〇することができる」と書いてあるのは「積極的要件」
「~~のときは、〇〇することができない」と書いてあるのは「消極的要件」
です。
つまり、上で書いた「執行停止」と「仮の差止め・仮の義務付け」の要件は、本来「してはいけない」(消極的要件)として書かれたものを、裏返して「してもいい場合」(積極的要件)に書き換えているのです。
条文の通りに正確に要件を書くと、以下のようになります。
執行停止
・原告の申立て(積極的要件)
・重大な損害を避けるため緊急の必要がある(積極的要件)
・本案について理由がないと見えるときはすることができない
(消極的要件)
・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは
することができない(消極的要件)
仮の差止め・仮の義務付け
・原告の申立て(積極的要件)
・償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある(積極的要件)
・本案について理由があるとみえる(積極的要件)
・公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは
することができない(消極的要件)
積極的要件は厳しいもの、消極的要件はゆるいものと覚える
積極的要件とはGOサインが出る要件、消極的要件はSTOPサインが出る要件と先ほど述べました。
これは裏返せば、積極的要件はその要件が満たされなければやってはいけない、消極的要件はその要件が満たされない限りやってよい、ということになります。
つまり、積極的要件の方が厳しいのです。
消極的要件はゆるいのです。
「本案について理由が・・」の要件の違いに注目
ここで注意して頂きたいのは、
「本案について」の部分です。
「執行停止」においては、消極的要件であり、
「仮の差止め・仮の義務付け」においては、積極的要件となっています。
つまり、執行停止は、
「まぁ本案に理由がないわけでもなさそうだからやっていいよ」とハードルが低いですが、
「仮の~」は「本案に理由がないとやっちゃダメだよ!」とハードルが高いのです。
このあたりの違いが、過去問でも度々問われています。
平成21年 問17 肢4
・執行停止は、本案について理由がないとみえるときはすることができないのに対して、仮の義務付けおよび仮の差止めは、本案について理由があるとみえるときでなければすることができない。【正解:〇】
混乱しがちな部分なので、しっかり頭に入れておきましょう。
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