今回のテーマは「不動産物権変動」の対抗要件についてです。
物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
「物権」の変動は、意思表示の時に生じるのが原則です。
つまり、物権変動は、お互いに意思表示をした時=「契約時」に生じます。
その他の行動(たとえば引渡しや登記)は、当事者間では必要ありません。
(これを「意思主義」といいます)
しかし、当事者間では有効に物権変動が生じたとしても、第三者が絡んでくると「対抗問題」が発生します。
つまり、当事者間ではすでに終わっているはずの物権変動が、第三者との関係では「対抗要件」を備えなければその権利を主張できないことになっているのです。
なんかややこしいですね。
例えば、AがBに建物を譲渡する契約をした場合、それが口約束に過ぎなくても、所有権はBに移転しますが、Bが登記をする前にCがAから建物を買って先に登記をした場合は、Cが所有権を取得します。
なぜなら、先に対抗要件を備えたのがCだからです。
動産の対抗要件は「引渡し」です
なぜ「対抗要件」などというのがあるかというと、単に意思表示をしただけでは、第三者にその事実が分からないからですね。
ですから外観上、第三者にも分かるようにしてはじめて完全な状態になる、と考えられているのです。
だからやっぱり、キチンと引渡したり、登記を備えるというのは重要なんですねー。
ところがです。
実は不動産においては、一部の場合に限って、登記なしで対抗できる場合があるんですね。
こういう例外的な部分は、試験対策上ぜひ押さえておきたいところです。
今回はそのケースをまとめておきましたので、一気にチェックしておきましょう。
一般的な取引がベースの場合
まずは一般的な取引関係がベースの場合です。
つまり、AからBが不動産を買ったとして、そこに第三者が現れたケース。
Bが登記なしでも対抗できる相手とは、一体どんな相手でしょうか。
背信的悪意者
先の例でいえば、Cが背信的悪意者であった場合は、たとえCが登記を備えていてもBは対抗できます。背信的悪意者は保護に値しないからです。
(※ただし、背信的悪意者からの転得者に対しては、転得者自身も背信的悪意者とされない限りは、登記がなければ対抗できません)
無権利者、無権利者からの譲受人
無権利者(たとえば勝手に虚偽の登記などをした者)などには、Bは登記なしで対抗できます。
そして無権利者からの譲受人に対しても、同様に登記なしで対抗できます。
無権利者が不動産の権利を譲渡することはできないからです。
不法占拠者
不動産を不法に占拠している者に対しては、その人たちを保護する必要がないので、Bは登記なしで対抗できます。
売主以前の不動産の持ち主
建物がAの所有になる前はXのものだったとしましょう。
つまり建物の所有権が、X → A → Bと移転していた場合です。
この場合、BはXに対して登記なしで対抗できます。
なぜならXは当事者と同じ扱いとなるからです。
以上、一般的な取引をベースにした場合で、Bが登記なしで対抗できる相手を見てきました。
本来必要であるはずの登記がなくても対抗できるということは、それぐらい「第三者を保護する必要がない」ということです。
こうしたことから、背信的悪意者、無権利者、不法占拠者などが相手の場合は登記不要で対抗できることはイメージしやすいと思います。
あと、元の建物の所有者(X)は、そもそも第三者に当たらない、という知識があれば大丈夫でしょう。
さて、ここから先はちょっと違うケースも押さえておきましょう。
「誰が」「誰に対して」対抗できるかも含めて頭に入れるようにしてください。
その他の場合
詐欺による「取消し前の善意無過失の第三者」が、「元の所有者」に対して
Aは、Bの詐欺によって自らが所有する不動産をBに売却した。
Bは、その不動産を善意の第三者Cに転売した。
その後、Aは詐欺を理由にBとの契約を取り消した。
この場合、CはAに登記なしで対抗できる。
詐欺取消しの場合です。
取消し前の善意無過失の第三者Cは、Aが取消すよりも前に不動産の契約をしています。
詐欺取消しにおいては、取消し前の第三者が善意無過失であれば、第三者の方が保護されることになっています。
そこで、CはAに対して登記なしで対抗できます。
「時効取得者」が、「時効完成前の所有者」に対して
そもそも時効完成前に登記を備えることはできないので、登記が対抗要件になりえないからです。
こちらについては「時効の重要ポイントまとめ」で詳しく触れていますのでご覧ください。
買主が、売主が死亡した場合の相続人に対して
Aは、Bから不動産を購入する契約を結んだ。
しかし、引渡し前にBが死亡し、Cが相続した。
Cは不動産の所有権は自己にあると主張した。
この場合、AはCに対して、登記なしで所有権を主張できる。
相続人は、元の売主と同一の存在とみなされるからです。
相続人が、相続放棄をした人の債権者に対して
AとBは不動産の相続人であったが、Aは相続放棄をし、Bが相続した。
しかしAは相続放棄をしたにもかからず自己名義の登記を行い、Aの債権者はそれを知らずに不動産を差押えた。
この場合、Bは登記なしで債権者に対抗できる。
相続放棄をしたことによりAは無権利者となるからです。
以上が主なケースとなります。
ちょっと多いですが、理屈で覚えると頭に入りやすいと思います。
ぜひ押さえておきましょう。
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