今回のテーマは「民衆訴訟」と「機関訴訟」です。
行政事件訴訟法の中でもいまいちイメージが掴みづらい訴訟なので、解説してみたいと思います。
まずは訴訟類型でチェック
まずは行政事件訴訟の類型から、この2つがどこに位置しているかを確認しておきましょう。
ふむふむ、行政事件訴訟は大きく「主観訴訟」と「客観訴訟」に分かれていて、民衆訴訟と機関訴訟は「客観訴訟」に分類されるものだということですね。
じゃあ、そもそもこの主観とか客観って何でしょうか。
主観訴訟と客観訴訟の違い
ざっくり言ってしまうと
主観訴訟とは、「自分の利益」のための訴えです。
客観訴訟とは、「法秩序」のための訴えです。
つまり、主観訴訟に分類されるものは個人の利益に直接関わりがある訴訟ですが、客観訴訟に分類されるものは個人の利益には直接関わりがなく、客観的な法秩序(行政の適法性など)を維持するために提起される訴訟ということですね。
訴えに勝っても、直接原告の利益にはならないのが特徴です。
では、その中の「民衆訴訟」と「機関訴訟」とはどのようなものか、それぞれ見ていきましょう。
民衆訴訟とは
民衆訴訟とは、国や地方公共団体が違法な行為をしていると思われるときに、選挙人や住民が
「ちょっとそれおかしいでしょ!是正しなさいよ!」
と言うものをいいます。
立ち上がる民衆といったイメージですかね。
条文では以下のように定義されています。
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
「自己の法律上の利益にかかわらない資格」って聞き慣れないですよね。
これは何かというと、「客観訴訟」なので、大前提として原告の法律上の利益には関わっていないことを表しています。
また、提起できるのは「法律が定めている者」に限られますので(※行訴法42条)、それが「資格」となります。
つまり「自己の法律上の利益に関わっていない、法律によって定められた者」ということです。
民衆訴訟の例は「選挙訴訟」と「住民訴訟」だけ押さえておけばOKです。
公職選挙法に定められた「選挙訴訟」
- 選挙の効力に関する訴え
- 当選の効力に関する訴え
「この選挙無効でしょ!」とか、「あいつの当選無効でしょ!」という訴えですね。
地方自治法に定められた「住民訴訟」
- 差止の請求
- 処分の取消や無効確認の請求
- 怠る事実の違法確認請求
- 損害賠償や不当利得返還の請求をすることを求める請求
国や地方公共団体の行為について、「それちょっと待った!」とか「取消して!」と訴えるものですね。
ちょっと多く見えますが、この4つしかありませんので頑張って覚えましょう。
最後のはちょっと分かりづらいかもしれません。
例えば地方公共団体の職員Aが公金を使い込んだとします。
この場合に、地方公共団体に対して「Aに損害賠償請求や不当利得返還請求をしてくれ」と求めるものです。
機関訴訟とは
機関訴訟とは、行政機関同士が「おたくにそんな権限ないんじゃないの?」とか「その行為おかしくない?」と争うものをいいます。
例えば、
- 地方公共団体の議会の議決について、地方公共団体の長が「その議決おかしいでしょ」と異議を申し立てる訴訟(議会 vs 長)
- 国の関与について、地方公共団体の長が「その関与は違法でしょ」と取消しを求める訴訟(国 vs 長)
- 市町村の境界に対する知事の裁定について、市町村が「いや、境界そこじゃないでしょ」と不服を申立てる訴訟(知事 vs 市町村)
などがあります。いずれも地方自治法が根拠です。
これも条文をみておきましょう。
この法律において「機関訴訟」とは、国又は公共団体の機関相互間における権限の存否又はその行使に関する紛争についての訴訟をいう。
注意しておくべきは「権限の存否又は行使に関する紛争」であるということです。
ヒッカケに注意しましょうね。
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