今回のテーマは、94条「虚偽表示」です。
虚偽表示は条文はシンプルながらも、試験に出そうなポイントがいくつかあります。
特に2項における「第三者」は重要なので、しっかり頭に入れておくようにしましょう。
まずは94条を確認
1. 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2. 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
まず1項では、通謀して虚偽の意思表示をした場合、それは無効である、としています。
お互いに真意ではない行為にまで法的効力を認める必要がないからですね。
今回も例によってキャラクターで例えておきましょう。
分かりやすくルパンと不二子にしておきましょうか。
ルパンが、強制執行を回避するために自ら所有する不動産を不二子に仮装譲渡したとします。
登記上、不動産は不二子のものになりましたが、この取引は真の意思が欠けているので無効となります。
しかし2項では、「その無効は善意の第三者には対抗できない」としています。
どういうことでしょうか。
例えば、その仮装譲渡について何も知らないクラリスがいたとしましょう。
クラリスはその不二子の(本当はルパンの)不動産をみて「いいな」と思ったので、「不二子さん、この不動産私に売ってくださらない?」ともちかけます。
不二子が「あらクラリスったら私のものだって信じてるわ。ちょうどいいから売っちゃいましょう」なんて考えて、クラリスに不動産を譲渡したとすると・・
ルパンはクラリスに大して
「ちょ、ちょーと待ってよクラリス。その不動産、本当は俺のもんなんだぜ~?」
とは言えなくなるのです。
なぜ無効を善意の第三者に主張できないのか?
本来無効であるものが、第三者との間では主張できないのはなぜでしょうか。
それは取引の安全を図るためです。
クラリスは素直に外観を信じただけの人ですから、何の責任もありませんよね。
対して、ルパンと不二子は虚偽の外観を作り出した責任がある人です。
ルパンや不二子の都合でクラリスの取引が無効になってしまっては迷惑な話ですよね。
ですから、何の責任もないクラリスを保護するために、取引を有効にしているのです。
このように、虚偽の外観を作り出した者は、善意の第三者に対して外観通りの責任を負うことを権利外観法理といいます。
ルパンだけでなく、不二子も無効を主張できません。
ちなみにクラリスが保護されるためには善意であればよく、無過失は要求されません。
また、ルパンに対し所有権を主張するのに登記を備えている必要はありません。
ちなみに「善意の第三者」といっても、当事者以外の全ての人が該当するわけではありません。
94条2項はあくまで外観を信頼して取引関係に入った第三者の保護が目的ですから、対象となる者は限られています。
第三者に該当するか否かは、試験でも問われやすい部分ですので、以下のページで具体例を頭に入れておいてくださいね。
動産の物権変動で94条2項が使われないのはなぜ?
上記のページをご覧頂くとお気付きかもしれませんが、94条2項が出てくる事例は、取引の対象が「不動産」や「債権」ばかりです。「動産」が出てきません。
なぜかというと、動産の場合には「即時取得」という規定があって、すでに善意の第三者が保護されているからです。
動産には登記のような公示の手段がないので、第三者には誰が所有者かを調べる手段がありません。
加えて、動産取引は日常的に行うものなので、いちいち誰が真の所有者かなど気にしていられません。
そこで、動産取引においては、外観を信頼して取引した者は、その通りの法律効果が認められるということになっています。(これを「公信の原則」といいます)
もしルパンの財産がダイヤの指輪(=動産)だったとすると、それを不二子に引き渡したら、クラリスにとっては不二子が所有者であるという推定が働きます。
ですから、善意のクラリスが不二子から指輪を受け取れば、その時点でクラリスは「即時取得」できてしまいます。
虚偽表示の有無は問題にならないのです。
そのため、94条2項で出てくる「第三者」は、不動産取引や債権取引の第三者ばかりなのです。
即時取得については以下のページをご覧になってください。
94条2項の類推適用とは?
不動産においては、動産のような「公信の原則」(外観を信じて取引した人がその通りの権利を取得できる原則)がありません。
不動産には登記制度があって所有者が調べられますし、高額な資産ですので慎重に取引するべきだからです。
しかし一方で登記には公信力がありません。(※動産は「占有」に公信力があります)
登記を信じて取引しても、その登記が真実ではなかった場合は保護されないのです。
そのため、不実の登記が虚偽表示による場合は、94条2項によって保護されることになっています。
ただ、中には虚偽表示ではないけど、虚偽の外観が作り出されたケースも存在します。
例えば通謀がないようなパターンです。
こうした場合に保護されないとなると、第三者は気の毒ですよね。
そこで、厳密には虚偽表示に当たらなくても、本人に虚偽の外観作出に一定の責任があるような場合には、94条2項を類推適用して第三者を保護するという対応が取られています。
では、その類推適用が認められた代表的な判例を見てみましょう。
ここでもルパンと不二子とクラリスで例えます。
ケース①
ルパンが、自らが所有する不動産を、不二子に無断で不二子名義にしていたところ、それを知った不二子がクラリスに売った場合。(最判昭41.3.18)
これは、ルパンと不二子の間に通謀はありませんが、ルパンには虚偽の外観を作り出した責任がありますので、類推適用が認められました。
ケース②
ルパンと不二子が虚偽の仮登記をしていたところ、不二子がそれを勝手に本登記にし、クラリスに売った場合(最判昭43.10.17)
仮登記は通謀して行ったものですが、本登記については不二子が勝手に行ったケースです。
この場合、本登記の前提となる仮登記を通謀して行ったルパンには責任がありますので類推適用されました。(※このケースでは、クラリスは善意のほかに「無過失」まで必要とされました)
ケース③
不二子が、ルパンに無断でルパン名義の不動産を自分の名義にし、それをクラリスに売った場合
(※ルパンは不二子名義になったことにすぐに気がついたが、そのまま4年間も放置していた)(最判昭45.9.22)
名義が勝手に書き換えられた場合、ルパンに責任はありませんので、原則としては94条が適用されることはありません。
しかしこの判例では、ルパンは名義が書き換えられたことに気が付いていたのに、それを長期間放置したという事情がありました。
そこで、ルパンには虚偽の外観を放置した責任があるとして、類推適用されました。
ケース④
ルパンが不二子に不動産の事務を任せていたところ、不二子が勝手に登記名義を変えて、クラリスに売った場合
(ルパンは不二子に登記済証や印鑑証明書を交付したり、言われるがままに不二子への売買契約書に署名押印していた)(最判平18.2.23)
これも名義が勝手に書き換えられたケースですが、何も考えずに不二子の言いなりになって重要書類を預けたり、売買契約書にサインしていたりしたことに責任があるとして、類推適用されました。
以上となります。
ちなみに類推適用のケースにおいては第三者に善意だけでなく「無過失」を要求している場合もあります。(ケース②)
ルパンの責任が軽い場合に、クラリスの保護要件を厳しくしてバランスを取っているわけですね。
余力があれば押さえておきましょう。
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