「先取特権」の基本的な知識を押さえておきましょう

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今回のテーマは「先取特権」です。

行政書士試験ではそれほど出題されることがありませんので、勉強が手薄になりがちな部分ではないでしょうか。

「今日こそ日曜」とか「ほこうばい」とか、語呂合わせだけは覚えているけど、何を意味しているのか忘れてるという方も結構いるかと思います。

ただ、忘れたころにポロっと出題されたりするので(平成28年とか)、一応基本的な知識は押さえておきたいところです。
先取特権の「種類」と、それぞれの「優先順位」を理解しておけば、まずまずカバーできると思うので、それをまとめておきました。

 

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先取特権ってなに?

そもそも先取特権とは何か、という点ですが、その名の通り「他の債権者よりも先取りできちゃう特権」です。

法律上は「債権者平等の原則」というのがあって、同一の債務者に対して複数の債権者がいる場合、全ての債権者は平等・公平に扱われます。

例えばのび太が、パパから1,000円、ママから500円借りていたとします。
でもおバカなのび太がお金を使いこんじゃったので、手元に300円しか残っていません。

パパとママの債権額の割合は、1000円:500円=2:1です。
そのため、のび太の残り財産300円をこの割合で案分することになります。

パパ:200円
ママ:100円

となるわけですね。
これが債権者平等の原則。

ところがです。

「先取特権」というのはこの原則の例外として、他の債権者よりも優先して回収できちゃう権利なんですね。

たとえばドラえもんが150円の先取特権を持っていたとしたら、丸々150円を請求できます。

すると、のび太の財産は
300-150=150円
ということになり、これを他の債権者であるパパとママで2:1に分けることになります。

ドラえもん:150円(先取特権)
パパ:100円
ママ:50円

ということになるわけですね。

 

そもそもなぜ先取特権なんてものがあるのか

こんな特別な権利、当然のことながら誰にも認められるわけではありません。
認められるものは、きちんと法律で定められています。
民法上に規定があるのは以下の3種類です。

 

●債務者の総財産から回収できる「一般の先取特権」
●債務者の特定の動産から回収できる「動産の先取特権」
●債務者の特定の不動産から回収できる「不動産の先取特権」

 

※動産の先取特権と不動産の先取特権は、併せて「特別の先取特権」と呼ばれます

 

ではなぜ、このような例外的な取り決めがあるのでしょうか?

それは、その権利の内容が、他の債権者よりも優遇されてしかるべきものだからです。

 

例えばある会社に勤めていて、その会社が給料を支払わないまま倒産したとしましょう。

当然、従業員は会社に対して未払い給料を請求する債権を持ちます。
しかし、倒産するような会社ですから、その他にも多くの借金があったりするわけです。
その額は数億にのぼることもあるでしょう。

もしこれを債権者平等の原則で配分してしまうと、従業員がもらえる給料は極めて少なくなってしまいます。
これではあまりに酷ですよね。

ですから、こうした債権は、他の債権者に先立って弁済を受けられるようになっているのです。

では、それぞれについてどんな種類の債権があるのか見ていきましょう。

 

一般の先取特権

まずは、債務者のすべての財産に対して優先弁済権を持つ「一般の先取特権」の被担保債権です。
この並びがそのまま優先順位となります。

共益の費用
雇用関係
葬式の費用
日用品の供給

「共益」ってなんやねん?と思いますよね。
共益の費用とは、「債権者みんなの利益のため」に負担した金額のことです。

たとえば、債務者が不動産を不当に安く売り払うなどの「詐害行為」を行った場合、債権者はそれを取消すことができます。

【改正対応】詐害行為取消権を1ページで分かりやすく解説
今日のテーマは「詐害行為取消権」(詐害行為取消請求)です。民法の中でも、けっこうつまづく方が多いところではないでしょうか。まず、概念自体にあまりなじみがないですよね。そして要件がたくさんある。さらに、その要件に例外まである・・とくれば混乱さ

債務者の財産が守られれば、取消権を行使した債権者だけでなく、他の債権者もメリットを受けることになります。

「よくやってくれた!グッジョブ!」

というわけです。

ですので、このようなグッジョブな行為に要した費用は、優先的に支払ってあげようということになっているのです。
「競売の費用」などもこれに当たりますね。

 

一般の先取特権の4つの順番は、その頭の文字だけを取って「今日こそ日曜」と覚えましょう。

①「きょう」益費
②「」用関係
③「」う式
④「にちよう」品の供給

 

動産の先取特権

動産の先取特権は、その名の通り、債務者の特定の動産から回収できるものです。(※その他の財産は目的となりません)
マイナーな債権が含まれているので、よく取り上げられる以下の3つの被担保債権のみ覚えておきましょう。これも優先順です。

不動産の賃貸借
②動産の保存
③動産の売買

①の「不動産の賃貸借」は、大家さんが債権者で、入居者が債務者の場合です。
もし家賃を払ってもらえなかった場合、大家さんは入居者の家財道具(動産)を売って、優先的に家賃を回収することができるということです。この場合の目的物は「家財道具」ということですね。

「動産の保存」は、債務者の動産を保存(修理など)した人がそれに要した代金を支払ってもらえなかった場合に、その動産が競売されたお金から優先的に回収することができるものです。

「動産の売買」は、債務者に動産を販売した人がその代金を支払ってもらえなかった場合に、その動産の競売から優先して回収することができるものです。現実的には、第三者に譲渡されていることが多いので、その売買代金へ物上代位するケースが多いですね。

 

この3つの優先順は、「ふちんほばい」と覚えましょう。

①「」動産の「ちん」貸
②動産の「」存
③動産の「ばい」買

 

 

不動産の先取特権

不動産の先取特権は、債務者の特定の不動産から回収できる債権です。

①不動産の保存
②不動産の工事
③不動産の売買

特定の不動産についてこれらの登記をした人は、その不動産を競売したお金から優先的に弁済を受けられます。(※不動産先取特権については「登記」が必要です)

こちらの順番は、「ほこうばい」と覚えましょう。

①不動産の「」存
②不動産の「こう」事
③不動産の「ばい」買

ちなみに、このうち「保存」「工事」については、それより前に抵当権が設定されていても、抵当権より優先して回収することができます。さすが先取特権。

 

先取特権同士が競合する場合は?

では、一般の先取特権と、動産や不動産の先取特権が競合する場合はどうなるでしょうか。
一般の先取特権は、債務者の財産全体を目的とすることができますから、動産や不動産の先取特権とぶつかることがあるわけです。

その場合は、「動産/不動産の先取特権」の方が優先されます。

ただし、「共益の費用」だけは、「動産/不動産の先取特権」よりも優先されます。
全債権者にとってメリットがあるわけですから、それだけ優遇されるのですね。

共益の費用は、すべてに優先される。

 

優先順位順に並べるとこんな感じです。

一般 共益の費用
動産/不動産
動産 不動産
不動産賃貸 不動産の保存
動産の保存 不動産の工事
動産の売買 不動産の売買
一般 雇用関係
一般 葬式の費用
一般 日用品の供給

 

なお、先取特権の行使にあたっては物上代位ができますので、その要件を含めて以下のページも併せて見ておいてください。

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コメント

  1. かわかみじゅん より:

    ありがとうございます。
    先取特権については、よく理解できず、テキストを見ても今ひとつわからなかったのですが、これを読んでとてもよくわかりました。
    例があるのも、イメージが湧いていいですね。
    感謝しています。
    これからもよろしくお願いします。

    • gyoseishoshi より:

      かわかみじゅんさん、コメントありがとうございます。
      お役に立てたようで良かったです。
      勉強頑張ってくださいね!