民法において、相殺が可能かどうかはよく問われるテーマの一つです。
今回はその中でも、「自働債権として」または「受働債権として」相殺が可能か否か?という視点でお話をしたいと思います。
まずは用語のおさらいをしましょう。
「自働債権」とは、「相殺します」と言う側が持っている債権です。
「受働債権」とは、言われる側が持っている債権です。
自分と相手がいるとして、自分が相殺をしたいとします。
自分が持っている債権が自働債権です。
相手が持っている債権が受働債権です。
自働債権として相殺できない債権は?
では問題です。
【問題】
ある債権は、「自働債権」として相殺ができません。
その債権を2つ挙げてください。
※相殺禁止特約は考えないものとします。
【解答】
- 同時履行の抗弁権が付着している債権
- 差押えを受けた債権
の2つ
同時履行の抗弁権が付着している債権
「同時履行の抗弁権が付着している債権」とは具体的にどういうものでしょうか?
物の売買契約(双務契約)をイメージしてみてください。
自分が物を所有していて、相手へ売るという売買契約が成立したとします。
(「物の引渡し」と「支払い」は同時履行の関係です)
すると、自分は「相手に代金を請求する債権」(※自働債権)を取得しますが、併せて「物を引渡す債務」も負います。
これが、同時履行の抗弁権が付着した債権です。
もしこの場合に自分から相殺ができてしまうと、自分は「物を引渡す債務」を果たしていないのに、双務契約が完了してしまうことになります。
そうすると、相手方は「物を確実に取得できない」という不利益を被ってしまいます。
だから、同時履行の抗弁権が付着している債権は、自働債権として相殺することができないのです。
差し押さえを受けた債権
「自働債権が差押えられている」場合は、処分権限がなくなっているため、相殺を主張することはできません。
受働債権として相殺できない債権は?
では次の問題です。
【問題】
ある債権は、「受働債権」として相殺ができません。
その債権を4つ挙げてください。
※相殺禁止特約は考えないものとします。
【解答】
- 悪意による不法行為によって生じた損害賠償請求権
- 生命身体の侵害によって生じた損害賠償請求権
- 差押えを禁止された債権
- 差押えを受けた債権(※条件付き)
の4つ
受働債権として相殺ができないというのは、自分が「相殺する!」と主張しても、相手が自分に対して上記の債権を取得している場合には、相殺は認められないということです。
悪意による不法行為によって生じた損害賠償請求権
例えばこんな例を考えてみましょう。
あなたは相手にお金を貸していましたが、相手はお金を返してくれません。
そこで、あなたは怒りにまかせて相手をボコボコにしました。
すると相手は、あなたに対して損害賠償請求権を取得することになります。
ここであなたが、「俺の貸したお金と相殺でいいだろ」と主張できてしまうとこうした事件が増えてしまう=不法行為を誘発する危険性があります。
そのため、悪意による不法行為によって生じた債権を受働債権として相殺することはできなくなっているのです。
生命身体の侵害によって生じた損害賠償請求権
人の生命又は身体の侵害による損害は被害者救済のために、現実に給付を受けさせる必要性が高くなります。
そのため、受働債権として相殺することができません。
差押えの禁止された債権
「差押えの禁止された債権」とは、具体的にいうと
・年金
・生活保護費
・労働者の給与債権
・扶養請求権
などです。
こうした債権は、債権者の生活を維持するために重要なものですから、現実に給付を受けさせてあげなければいけません。
よって、相殺によって消滅させることができません。
差押えを受けた債権(※条件付き)
相手方が自分に対して有している債権が、第三者によって差し押さえられていた場合、相殺することができません。
ただし!
「自働債権」が差押えよりも前に取得したものである場合には、相殺ができます。
え、なに?タイミング次第なわけ?
そう、これは差押えと自働債権の取得の時期のどちらが早いかで決まるんですよ。だから「条件付き」とさせて頂きました。
差押えの方が先だったら、相殺できません。
自働債権を取得した方が先だったら、相殺できます。
これはしっかり判断できるようにしないといけませんね。
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試験では「自働債権」と「受働債権」を入れ替えたヒッカケ問題がたびたび見受けられます。
ぜひ正確に覚えておきましょう。
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