今日のテーマは「即時取得」です。
即時取得ってなに?
これは民法の原則からすると、ちょっと意外な内容なんです。
まずは条文を見てみましょう。
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
これも具体例を挙げると分かりやすいですね。
Aさんが持っていた腕時計を、Bさんが借りていたとします。
それをCさんが、Bさんのものだと善意無過失で信じて、「その時計、僕に売ってくれないかな?!」と言いました。
ちょうどお金に困っていたBさんは、「いいよ!」と言って時計をCさんに売ってしまいました。
さて、Cさんは所有権を取得することができるでしょうか。
なんと、Cさんは所有権を取得できます!
民法の原則からすると、無権利者と行った取引はそもそも無効であるはずです。
先日の「不動産の共同相続後に、共同相続人が他の相続人の持ち分を勝手に譲渡した場合」などもそうでしたよね。
しかし即時取得の場合、「無権利者」から譲り受けたにもかかわらず、権利を取得できてしまうのです。
WOW!!エキサイティング!!
ではなぜこのような規定ができたのでしょうか。
それは、即時取得の対象が「動産」に限られているところから見えてきます。
動産とは、不動産を除くすべての財産です。
目の前にあるペンとか消しゴム、パソコン、ケータイ、時計やメガネなどですね。
普通、こうした動産には、登記や登録といった制度がありません。(※車などは除く)
そりゃそうですよね。
持っているものすべてを、いちいち登録なんかしていられません。
膨大な手間が発生してしまいます。
しかし、登記とか登録の制度がないということは、裏を返せば、真の所有者が誰かを調べる手段がないということです。
だけど私たちは、いちいち「あの人の持っているものは、誰か別の人のものかもしれない・・」なんて疑ったりしませんよね?
見た目からして怪しいとか、そういう理由がなければ、持っている人=所有者と考えるのが自然なワケです。
法律もそのように考えていて、動産の場合は、占有している人=所有の意思をもって、善意かつ平穏・公然に占有している人だと推定するとしているのです。
要件5つをチェック!
即時取得が認められるには、5つの要件があります。
それをまとめてみましょう。
①動産であること
②前の持ち主が無権利者であること
③取引により占有を承継したこと
④占有を開始したこと
④平穏・公然・善意・無過失であること
ここは結構重要なので、一つ一つみていきましょう。
①動産であること
先ほどお伝えした通り、即時取得が適用されるのは「動産」のみです。
土地・建物等の「不動産」には適用されません。
なお、2点注意して頂きたいことがあります。
1つ目は、「車」と「現金」は動産でありながら即時取得の対象とならないことです。
車は登録制度があるので、所有者が誰なのか分かるからです。
また、現金も動産ではありますが、あくまで流通の手段に用いられるものであり、特定のモノとはいえないからです。
2つ目は、立木(樹木)については、伐採前と後で異なるという点です。
伐採前は、不動産の一部として扱われるので即時取得の対象となりません。
しかし伐採後は、動産となるので即時取得の対象となります。
②前の持ち主が無権利者であること
これは即時取得の最たる特徴なので、何をかいわんやですね。
ただ、注意すべきは、前主が「制限行為能力者」「無権代理人」「錯誤があった場合」には、即時取得が認められません。
もし認めてしまうと、それぞれの保護規定が意味をなさなくなってしまうからです。
③取引により占有を承継したこと
これは大事です。
占有の承継は、「取引行為」によって行わなければなりません。
つまり、売買、贈与等が必要だということです。
「相続」は対象となりません。
④占有を開始したこと
ここでの「占有」とは、「自分の手元、又は、管理を委託された者の元にある」ということです。
占有の移転には、通常の移転以外にもいくつか種類があります。
「占有改定」「簡易の引き渡し」「指図による占有移転」の3つです。
「占有改定」とは、Aが自分の物をBに譲渡したけれど、品は引き続きAが持っている場合です。
「簡易の引き渡し」とは、AがBに物を貸していて、そのままBに譲渡するという場合です。
「指図による占有移転」とは、AがCに物の管理を頼んでいて、それをBに譲渡するから今後はBのために管理してくれとCに指図することです。
このうち「占有改定」だけは即時取得が認められません。
物が、自分の元にも管理者の元にもないからです。
⑤平穏・公然・善意・無過失であること
力づくで奪ったりしてはダメですし、相手が真の所有者でないことを知っていたら当然適用がありません。
ここでのポイントは、この要件は「最初から推定されている」という点です。
つまり、先ほどお伝えした通り、元の占有者は所有の意思を持って、善意・平穏・公然と占有していると推定されているので、その相手から取引した人も、そのように推定されるのです。(民法188条によって、無過失も推定されます)
よって、即時取得を主張する側は、この要件を自ら立証する必要はありません。
即時取得が成立しても、取り返されてしまうケースがある?
さて、上記の要件を満たして、めでたく所有権を取得したとします。
けれど、それでも「その物、返してください」と言われてしまうケースがあります。
それは「盗品」「遺失物」だった場合です。
即時取得した物が盗品または遺失物だった場合、元の所有者は失った時から2年間、回復請求ができます。
ただし、占有者が公の市場や商人から購入していた場合は、その代価を弁償する必要があります。
即時取得は、問題にしやすいポイントがたくさんあります。
何度も見返して覚えるようにしましょう!
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