今回のテーマは「相殺」です。
ここも一部改正があったところです。
全体としては判例の立場を明文化した部分が多いのですが、一部に出題しやすそうな文言の変更がありましたので今回はそちらをご紹介します。
相殺禁止の特約を対抗できるのは、相手がどんな第三者のとき?
民法505条1項は、同種の債務を持ち合っている者同士は相殺ができるという旨が規定されています。これは変更はありません。
変更されたのは2項です。
改正前は以下のようになっていました。
改正前505条2項
前項の規定(=相殺)は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
前項の規定(=相殺)は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
AとBとの間で相殺禁止の特約を結んでいた場合、それはAB間では有効です。
しかし、その特約を知らずにBから債権を譲り受けたCがいた場合、AはCに対して「その債権は相殺禁止だよ!」と言えない、というのが2項の規定ですね。
でも、善意だけでCが優遇されるのっておかしくないでしょうか?
もしCが重過失によって知らなかった場合でも、Aは対抗できないのでしょうか。
実はこれ、既に判例が出ていまして、Cについては単に善意だけではダメで、「善意かつ無重過失でなければならない」とされていたのです。
重過失は、わずかな注意さえあればたやすく気付けたのに見過ごした場合を指します。これはほぼ悪意と同視されます。
ということで、こうした判例の立場を受けて、文言が以下のように変更されました。
改正後505条2項
前項の規定(=相殺)にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
表現が「~できない」から「~できる」にひっくり返っている点に注意ですね。
以下で整理しておきましょう。
図表で表すとこんな感じ
C(譲受人)が | Aは、相殺禁止の特約を | |
---|---|---|
善意 | 無過失なら | 対抗できない |
軽過失なら | 対抗できない | |
重過失なら | 対抗できる | |
悪意なら | 対抗できる |
なんとなーく文字数的に記述問題にしやすそうな印象があります。
書かせる内容が平成29年の問45に似ていますが、一応記述問題を作っておきましたので、よろしければこちらもどうぞ。

練習問題39(民法)
【問題】
AとBはお互いに金銭債権を有しており、かつ、それらの債権について相殺禁止の特約を結んでいた。その後Bは、このAに対する債権をCに譲渡した。
CはAに対して同種の債務を有しており、双方の債務は相殺が可能な性質のものであった。...
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