今回のテーマは「債権者代位権」です。
「おっ!こんなことが可能なのか!便利だなぁ!」と思う部分かもしれません。
なにせ「自分のものじゃない債権を自分が行使できる」というものですからね。
債権者代位権とは何か
債権者代位権とは、債務者が自分の権利を行使しないとき、債権者が債務者に代わって「債務者が第三者に対して有する権利」を行使することをいいます。
ややこしいので例を挙げて解説しますね。
のび太はスネ夫に100円を貸しました。
スネ夫は「明日には返すよ」と言いました。
ところが、翌日を過ぎてもスネ夫はのび太にお金を返そうとしません。
しかもスネ夫は今、財布の中がスッカラカンのようです。一方、スネ夫はジャイアンに300円貸していました。
のび太からすればスネ夫がジャイアンに請求してくれれば、自分にもお金が戻ってくると思います。
しかしスネ夫はジャイアンに請求しようとしません。
こんなとき
のび太はジャイアンに直接100円を請求することができる
これを債権者代位権といいます。
これは便利ですね!
要件は?
債権者代位権を行使するには一定の要件が必要です。
②債務者(スネ夫)が無資力(スッカラカン)であること
③代位行使される権利(スネ夫がジャイアンに持つ権利)が、一身専属の権利、差押えを禁じられた権利ではないこと
上記が満たされていれば、のび太は、スネ夫の同意なしに、直接ジャイアンに請求することができます。
では一つ一つ見ていきましょう。
債権者代位権は、債権者の財産を守ることが目的なので、原則として被保全債権は金銭債権とされています。(※例外は後述)
また、期限が到来している必要があります。
11月に期限が到来する債権なのに、10月に代位権を行使することはできないということです。
しかし!
もしスネ夫がジャイアンに持つ債権が10月に消滅時効を迎えてしまうとしたらどうでしょうか?
11月になってからでは間に合わないので、その場合は10月に請求して時効の更新を行うことができます。
こうした行為を保存行為といい、期限到来前にすることができる例外となっています。
債権者代位権は、人の権利を勝手に行使するものですから、やむを得ない状況がなければなりません。
もし債務者がお金を持っているなら、わざわざ代位する必要はないわけです。
そのため、原則として債務者の無資力が要件とされています。(※例外は後述)
債務者しか行使すべきでないような権利は、代位することができません。
たとえば、慰謝料請求権や財産分与請求権、相続における遺留分侵害額請求権などです。
(ただし、具体的な金額が確定すれば代位は可能です)
また、差押えが禁止された債権は、代位することができません。
たとえば、年金や生活保護費の受給権です。
これらの債権は、その権利の性質上、代位できないこととなっています。
要件は以上となります。
他に「被保全債権が強制執行により実現できるものであること」という要件も明文化されていますが、こちらは軽く見ておくくらいでいいでしょう。
請求できる範囲は?
のび太は、直接ジャイアンに「ぼくに支払って!」と請求できます。
ただし、直接請求できるのは、のび太の持つ債権の額までです。つまり100円です。
スネ夫はジャイアンに対して300円の債権を持っていますが、全額を請求することはできません。
これはあくまでのび太の債権を保全するためのものだからです。
相手方は抗弁できる?
もしジャイアンがスネ夫に有している債務の300円が、同時履行の抗弁権がついたものであったらどうでしょうか。
たとえばその支払いは、スネ夫から星野スミレのプロマイドと引き換える約束であったような場合。
ジャイアンは、のび太からの請求に対して「スネ夫からプロマイドを受け取ってないから払わないぞ!」と言えます。
このように、相手方が債務者に対して抗弁権を持っている場合は、債権者に対しても抗弁することができます。
債務者は取り立てする権利を失う?
もしのび太の持つ債権が300円であり、ジャイアンに対して300円を請求した場合、スネ夫が本来持っていたジャイアンに対する300円の権利はどうなるのでしょうか。
もしジャイアンがのび太に300円を支払ってしまえば、完全に消滅します。
しかし、まだジャイアンが支払っていないのであれば、スネ夫も有効にジャイアンに対して300円の支払いを求めることができます。
ジャイアンは、のび太から請求されていても、スネ夫に払うこともできます。
債権者代位権の転用とは?
さて、今までは金銭債権について見てきました。
しかしこの債権者代位権は、金銭債権以外でも認められる場合があります。
代表的な例は、「不動産の移転登記請求権」です。(423条の7)
例を挙げてみましょう。
ジャイアンはスネ夫に自らの土地を売却しました。
そしてスネ夫は、その土地をのび太に売却しました。
ところが、土地はまだジャイアンの名義のままとなっています。
本来であれば、ジャイアン→スネ夫→のび太という順に移転されなければなりません。
しかしスネ夫がジャイアンに対して移転登記請求をしないため、のび太は自分へ登記を移せずにいます。
こうした場合、のび太はジャイアンに直接移転登記請求ができます。
また、この場合は債務者(スネ夫)の無資力要件は必要ありません。
このように、債権者の債権を保全する必要があり、債務者が自ら権利を行使しない場合には、債権者代位権を拡張して適用できることがあります。
これを「債権者代位権の転用」といいます。
他にも「建物の明渡し請求」や、「消滅時効の援用」もできるとされています。
債権者代位権の応用知識として、ぜひ知っておいてください。
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