今回のテーマは「遺産分割協議」です。
相続が発生すると、その時点から被相続人の財産は相続人の共有となります。
しかし、実社会において、共有状態というのは管理や処分の際にスムーズに事が運びづらく、好ましくありません。
ということで、相続人全員が集まって、この共有状態を解消するために「遺産分割協議」というのを行うのが一般的です。
簡単にいえば、誰がどの財産を相続するかを決める話し合いです。
今回はこの遺産分割協議について、重要論点を一気にまとめておこうと思います。
遺産分割協議の重要論点
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければ無効となる。
遺産分割協議は、相続人が1人でも欠けると無効です。
(相続放棄をした者は、最初から相続人とはならないので参加不要です)
ちなみに、未成年者が相続人となる場合、通常であれば法定代理人が代理することになりますが、その法定代理人自身も相続人だったときは、利益相反関係となりますので、特別代理人が選任され、未成年者の代わりに遺産分割協議に参加することになります。
相続開始から10年以内に遺産分割協議を行わないと、「特別受益」と「寄与分」は主張できなくなる(904条の3)。
遺産分割協議自体はいつでもできます(時効によって消滅することはありません)が、相続開始後10年以内に行わないと、特別受益と寄与分についてはもう主張することができなくなります。
ということで、もしこれらを主張すれば多くの財産を相続できた場合であっても、もはやそれはできなくなります(法定相続分または指定相続分による遺産分割となります)。
共同相続人の一人が遺産分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、1か月以内にその価額及び費用を償還して、その相続分を取り戻すことができる(905条)。
ここでいう「相続分」とは、遺産全体に対する包括的な持分や、法律上の地位を指します。
(特定の不動産についての共有持分を譲渡しても、この規定は適用されません)
これは、第三者が突然介入してきてトラブルになることを予防するための規定です。
そのため、この取戻権の行使は、譲受人に対する一方的な意思表示で効力が生じます。
譲受人は、反対しても取り戻されるということです。
遺産分割協議が成立した場合、その効力は相続開始時(被相続人の死亡時)にさかのぼって発生する(909条)。
遺産分割協議の効力は「遡及効」です。
(遺産分割協議が成立したときから、ではないことに注意です)
遺産分割協議は、錯誤、詐欺、強迫による取消しの対象となる(96条)。
遺産分割協議は、有効に成立したら、一部の相続人が債務を履行しないといった理由で解除することはできません(※相続人全員の合意による合意解除は認められます)。
しかし、遺産分割協議における意思表示が錯誤、詐欺、強迫によるものであった場合は、取り消すことができます。
あくまで協議は相続人間での契約行為だからです。
預貯金債権は、遺産分割の対象となる(最判平28.12.19)。
共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、遺産分割の対象となります。
可分債権のように、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるわけではありません。
法定相続分と異なる遺産分割がなされた場合、不動産は登記をしなければ、第三者に対抗できない(899条の2)。
遺産分割に限った話ではありませんが、相続による権利の承継においては、法定相続分を超える部分は、対抗要件を備えなければ第三者に対抗することはできません。
不動産においては、登記が対抗要件となっています。
遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、相続人全員の同意があれば、その財産は遺産分割時に存在するものとみなせる(906条の2)。
被相続人は、遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる(908条1項)。
相続開始後すぐに遺産分割が行われると支障があるような場合、被相続人は、遺言によって5年以内の任意の期間を決めて、遺産分割できないようにすることができます。
相続財産が多い、相続関係が複雑等の理由で時間がかかるときや、相続人の中に未成年者がいて成人となるのを待ちたいとき、相続人たちの気持ちが落ち着くまでしばらく待ちたいときなどに使われます。
また、この遺産分割の禁止は、相続人側の話し合いで決めることもできます。
共同相続人は、5年以内の期間で、遺産の全部又は一部について、遺産分割をしない旨の契約をすることができる。ただし、期間の終期は、相続開始の時から10年以内(908条2項)。
この契約は、5年以内の期間で更新できる。ただし、その期間の終期は、相続開始の時から10年以内(908条3項)。
相続人は、以下の金額までは、遺産分割協議前でも、単独で金融機関から払い戻しを受けることができる(909条の2)。
被相続人の預貯金額×3分の1×その相続人の法定相続分
※ただし、150万円を超える場合は150万円が限度額
死亡すると、被相続人の口座は凍結されてしまい、遺産分割が終わるまで自由に引き出すことができなくなります。
ただ、そうすると、お葬式費用や当面の生計費に困ることがあるので、遺産分割前であっても、上記の金額までは各相続人が単独で引き出せることとされています。
例えば、A銀行に1,200万円の被相続人の預金があり、相続人が配偶者と子2人の場合は、
配偶者:1,200万円×1/3×1/2=200万円 → 150万円を超えているので150万円
子:1,200万円×1/3×1/4=100万円
までは、単独で引き出すことが可能となります。
ちなみに、これは1金融機関ごとの上限なので、他の金融機関でまた別に引き出すことは可能です。
相続の開始後に認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求するときは、他の共同相続人が既に遺産分割を終えていたら、価額のみ請求することができる(910条)。
例えば、被相続人の死後に認知の訴えを起こして判決で認知された者などは事後的に相続人となります。
すると、認知の前に他の共同相続人らが遺産分割協議を終えていることもあるわけです。
その場合、認知によって相続人となった者は、他の相続人に対して自己の相続分相当の「お金」を請求することができます。
不動産や動産などの「物」の分割を今さらやり直すのは大変なので、価額支払請求権のみ認められているのです。
以上、ババッと論点を洗い出してみました。
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