行政事件訴訟法の勉強をしていると、時々「民事保全法」という言葉が出てきます。
あんまり聞いたことのない法律ですよね。
行政書士試験の学習範囲に、こんな法律はなかったハズ。
なのになぜこの法律名が出てくるかというと、行政事件訴訟法44条にこんな規定があるからなんです。
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法に規定する仮処分をすることができない。
一体何を言っているのでしょう?
そもそも習ったことのない法律の規定のことを突然言われても
( ゚Д゚)ハァ?
って感じですよね。
しかし、これは実はそんなに難しい話じゃないので、このページでしっかり押さえておきましょう。
民事保全法は、仮の救済制度を定めた法律
そもそも民事保全ってなんでしょうか。
民事保全というのは、ざっくり言うと、「債権者の権利を“とりあえず”保全すること」です。
たとえば、債権者が債務者の財産に対して強制執行するつもりで訴訟を起こしたとします。
しかし訴訟には長い時間がかかります。
その間に、債務者が財産を他人に譲渡してしまっては元も子もありませんよね。
そこで、裁判所に「債務者が勝手に財産を譲渡しないよう、仮差押えをしてください」と申し立てることができます。
また、自分が所有している不動産に他人名義の登記がされているような場合、訴訟中に相手が勝手に不動産を譲渡したりしないよう、譲渡禁止の仮処分を申し立てることもできます。
このように、裁判で結論が出るまで、債権者の権利を保全するために「仮差押え」や「仮処分」をして、仮に救済することを民事保全といいます。
44条は、この「仮処分」はできないよと言っているわけですね。
抗告訴訟には、すでに「仮の救済制度」がある
あれ、「仮の救済制度」って、何か聞いたことありませんか?
たしか行政事件訴訟法にあったような・・
そういえば「執行停止」とか「仮の義務付け」とか「仮の差止め」ってまさにそれじゃないですか。
公権力の行使に対する訴訟(抗告訴訟)については、行訴法上に「仮の救済制度」がもう用意されているってことですね。
つまり44条が言っているのはこういうことです。
「抗告訴訟には、もう救済制度が用意されてるから、民事上の救済制度は使っちゃダメよ」
取消訴訟 → 執行停止
無効等確認訴訟 → 執行停止
義務付け訴訟 → 仮の義務付け
差止め訴訟 → 仮の差し止め
これらの訴訟には、この手続きを使ってね!ということですね。
(不作為の違法確認訴訟は、そもそも「仮の救済制度」の必要がありません)
実質的当事者訴訟では、使える場合がある
一方で、公権力の行使に対する訴訟ではない実質的当事者訴訟の場合は、民事保全法の「仮処分」ができる余地があることになります。
これは平成23年問18で出題されていますね。
あまり難しく考えず、とりあえず以下の表を覚えておけば、問題には対応できると思います。
民事保全法の「仮処分」が | |
---|---|
抗告訴訟 | × (できない) |
実質的当事者訴訟 | 〇 (できる) |
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